「あんたは何買いに来たの?」

 ずいっ、と鈴明の前に庇うように出ると、琉李は相変わらずだな……、と苦笑しながらも首を竦めた。

「特に何も」

「それじゃあ、私は鈴明の首飾りを探すから。鈴明」

「あ、うん」

 瑶漣に手を捕まれ、引っ張られながら歩き出すと、その背中に琉李が声をかけてきた。

「……鈴明は何かうんだ?」

「研ぎ石とー、墨―。あ、ちょっと、引っ張りすぎ!」

 琉李の方を向いていたから、歩調が合わず、転びそうになってしまう。

 咎めるようにして瑶漣を見れば、彼女も別の人物をにらめつけていた。

「ちょっと、何であんたも付いて来るのよ。何? 首飾りでも欲しいの?」

「んなわけあるか。研ぎ石買いに行くなら、俺もついていこうかなーと」

「ふぅん、そう。鈴明行くわよ」

 琉李の言を一言で片付けると、瑶漣は再び歩き始めた。

 それに慌ててついていくと、彼も同じようについてきた。

「ちょっ、それだけかよ!」

「それが何か? 私はあんたと買い物しに来たんじゃないの。放っておいても構わないじゃない」

 振り向きもせず、彼女は言い切った。

 その反応にがっくりしながらも、琉李は鈴明を見た。

「ついていってもいいだろ? 別に」

「さぁ? あたしじゃなくって、瑶漣に聞いたら?」

「聞いてこの調子なんだけど」

 お前、聞いてただろ、と言われると、鈴明はぷいっとそっぽを向いてしまう。

「あたしは今日、主導権握ってないから」

「おいおい……」

 見れば納得。というか、何時も通り? 服の袖を引っ張られ、ずるずると引きずられている。それでも親友かよ、とか、人権無視だ、と思ったりもするけれど、この二人の場合は、これで通用してるらしいので、何突っ込んでも無意味だと、琉李は自分を納得させた。

 そんな事よりも、瑶漣が自分を無視して去ってしまう事の方がよほど問題だ。せっかく見つけたのに意味がないではないか。

「おーい、瑶漣」

 反応が無い。

 というより、視界外、いや、むしろ意識外に琉李の存在はおかれているらしい。

「冰梦との会談の場をさりげなく設けるのは?」

「あんたに頼らなくてもそんなの出来るわよ。舐めないで」

「玉、最高級100個」

「お生憎様。そんな事に玉を使って欲しくないわ」

 気に食わないらしい。

 鈴明の裾を引っ張ったまま、振り返ることすらしない。

 琉李が嫌いなのか? ……そういうわけではないらしい。本人としては、鈴明に関わられるのがいやなのだとか。

「じゃあ、最高級茶屋とか?」

「ふざけないで? 何であんたとお茶をしなくちゃいけないのよ」

「いや、だから冰梦と」

「あのねぇ。あんた、それから冰梦に何言われるか分からないでしょ? そこまで気が回らないのかしら、刑部の次官という人が」

 明らかに軽蔑が入った口調だ。挙句の果てには鼻で笑っている。

 怒る場面なのだろうが、琉李はそうしない。というより、呆れている。顔を軽く引きつらせながらも笑っていた。

「俺が口ぞえするけど?」

「人の口に蓋をするのは不可能よ。無駄」

「潰すとか言えば聞くと思う」

 その言葉にはもう一人が反応した。

 足と共に。

「いったっ! 鈴明何するんだ……」

「琉李、潰すとかいったら、お店の日と可哀想じゃんか。というか、二人とも何の話ししてんのか、あたしにはさっぱりなんだけど」

 軽く蹴りを入れて睨めつけた鈴明だが、すぐに首を傾げて二人に視線を向ける。急に始まった論争なので、目的が何なのかが判断できないらしい。

「何の取引?」

 お前だよ、と言いたいのを琉李はぐっと押さえ。瑶漣も押さえ。

 二人視線を絡ませると、同時に頷いた。

「秘密」

「内緒よ」

 一時休戦だ。

 諦めたように瑶漣が手をひらひらと振ると、先ほどの速度を緩め、いつものゆったりとした歩みへと戻った。

 ようやくほっとしたように息をつくと、琉李は少しだけ足を速め、女二人の所に並んだ。しかし、隣は瑶漣だ。いや、さっきまで鈴明だったのが、瑶漣に変わったというのが正しい。

 抗議するように視線を強めれば、負けないくらいの強い視線が帰ってくる。

 無言での攻防が続く。

 しばらくして、琉李が口を開いた。

「何で?」

「緩衝材よ。悪いかしら?」

「悪い」

「何よ、奥様に零してもいいのかしら? お宅の息子さんが私を苛めてきますって」

「……お前も母上と繋がってるのかよ……」

「決まってるじゃない。鈴明と一緒にいれば当たり前よ」

「くっそ、あの隠れ鬼畜がっ」

「奥様隠していらした?」

「……隠して……ないなぁ」

 終始睨み合ったままの会話だ。物騒なことこの上ない。

 現に、すれ違う通行人達が、興味はありそうな顔はしているものの、怖がって回りに近寄ってこない。

 そんな二人を眺めながら、当に理由を聞く気が失せた鈴明が、空を仰いでつぶやいた。

「いつまで続くのかなぁ」




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短いですが、これくらいで(汗
長いこと開けていたのですが、これから少しずつ書いてきたいと思います。やっとラストの展開が思いついたので。
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