駆けつけた先には、すでに煌がいて、巨漢の腕に首を絞められる形で立っていた。

 それでもムカつくというのに、主犯の奴なんか、珍しく煌がミニスカを履いているのを幸とみなして、嘗め回すように見ている。

 あぁ、胸糞わりぃ。

 俺がついたことを知った奴は、煌への視線を止めて、滑稽にしか写らない笑みを浮かべた。

 余裕があることを見せたいのだろうが、視線がちょろちょろと動いていて、小物っぷりを存分に見せびらかしていた。

「よく来たな桐原の御曹司」

「さっさと煌を返せ」

「落ち着けよ。交換条件がある」

「知るか、さっさと返せ。……俺以外が煌に触れてるなんて怖気が走る」

「煉……」

 首をしめられる形で囚われているというのに、煌はいつもと変わらない表情で、俺を見ている。

 その瞳は微妙な変化で、呆れてることを写している。

 俺も少しだけ苦笑をもらした。

 こんな状況にも揺るがない彼女の姿を見て。

「煉、逃げて……」

 普通の人なら、何て健気なんだろう、そう、感じるかもしれない。

 けど、煌は違うんだ。

不服そうな瞳から、邪魔、と言外に伝えてくる彼女。

 そうだ、煌なら大丈夫。

 例のブツを積んでる煌なら、こんな奴ら屁でもない。そんなことは知ってるさ。

 だけど、煌。煌は忘れてるよ。俺の感情を。

 好きな奴を放っておいて逃げろって? 反吐がでる。

「なぁ、オッサン。手ぇ、どけろよ?」

 隠し持っていた拳銃、親父に護身用と、つねに持っているようにしているのを、ホルダーから取り出す。

 弾は常に六発+二発。

 10年前に貰った旧式のだけど、扱いやすくて気に入ってる。

「おいおい、坊主。そんな旧式ので打てるのかい?」

「この女を返さなくちゃ打つって? 本当にできるのかよ」

 嘲笑うやつら。

 それに一つだけ微笑を返し。

 引き金を引いた。

 奴らの笑みが少しだけ引いた。

 トリガーに触れ、照準を合わせる。

 ゆっくりとトリガーを押した。

 大男の右腕が鮮血がほとばしる。

 そして、微かに香る硝煙の匂い。

 滴る血で我に返ったらしい。

 のろのろと己の腕を見た瞳が凍る。

 余裕ぶっこいて笑みを浮かべていた顔が、たちまち硬くなる。

「俺さ、桐原な長男な訳よ。親父は財界のトップだからさ、色々と狙ってくる奴もいる」

 もう一つ入っていた拳銃をちらりと覗かせれば、男の顔は引きつる。

「持ってるのに、打てるか? って質問、愚問だということ、理解できない?」

 柔らかく微笑んで見せれば、目に見えて震えだした奴。

 逃げ腰になっているその体に、少し掠るように打てば、へたりこんでしまった。

 質の良さそうなスーツに穴が開いてしまってるけど、奴は全く気づいていないみたいだ。

「ねぇ」

「……ひぃ……っ」

 

「無傷で帰れると思ってた?」

 

 

 

 

ヒール的思考

(誰も護れない正義なんてくそったれだ)                                                                                           

 

 

 

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