「巽李〜、お帰りなさい」 「ただいま、仙姫」 激務であったろうに、全く疲れた様子を見せずに、翠の宗家、長である巽李は微笑んだ。 「今日も親戚の奴らが来たと聞いたけど、大丈夫だったか?」 「あら、心配しないで。あまりにぐだぐだいうものだから、水をぶっかけて追い返しておいたわ」 「ちゃんと帰った?」 「えぇ。だから、巽李は気にしなくていいの。さ、夕餉は出来てるわよ」 「分かった」 仲良くそぞろ歩く二人。 それを琉李は呆れたような、羨ましそうなそんな顔で見ている。 「琉李」 「! はい。父上」 「また、暴走したと聞いたが?」 「うっ……。どこでそれを」 「鷹羽君からね。また鈴明がらみ」 「またなの? 琉李……」 両親そろって呆れた顔。 「仕方ないでしょう!」 「……琉李。お前はもう少し、頭を冷やしながら行動したほうが良い。熱くなったままの頭じゃ、何もいい事は生まれない」 涼しい顔で言い放つそれは、何故か貫禄を帯びている。 「父上のようには行きませんって」 「私のように? 真似するほうが悪い」 すっぱりと切り捨てる巽李。 口角を吊り上げ、意地の悪い笑みを浮かべる。 「私の真似など、じゅくじゅくの未熟者のお前が出来たら天地がひっくり返るような事だよ。50年早い」 「〜〜〜〜〜〜っ!!」 すっごく言い返したい。 言い返したいが、言い返せない。 政界の中心に身を置き、身分ゆえに、などと影口を叩かれることもないほど有能な父親に比べれば、自分なんてそんな風に言われたってしょうがない。 が、ムカつくには変わりない。 「それは」 「違った? 私も目が狂ったか」 「そんな事無いわよ。だってこの子、鈴明ちゃんにもボロクソに言われてるもの」 「母上!」 「ほぉ。年下に馬鹿にされるほどか。なら、私の目もまだ狂ってない」 満足そうに笑う親父を、俺はじと目で見ることしかできなかった。 「翠門下侍郎」 「ん」 「お探しの資料です」 「ありがとう。次は、製作に当たってくれ」 「了解しました」 一礼して去っていく部下を見送り、巽李は手元の資料に目を移した。 「これは、いらないか」 新たな宴の発案。 残念ながら、今年の予算は一杯一杯。そんな金はどこからもでないので却下。 びりびりと破り捨て、次の資料へと手を伸ばす。 「鷹羽君?」 「……はい、巽李様。報告にあがりました」 「聞こうか」 「――黄門侍郎に間違いありません」 「やはり、か」 巽李 琉李の父で、仙姫の夫。 幼い頃は、琉李と同じように、下町? で遊んでいたため、鈴明の父凰畢、瑶漣の父玄翔とは友達である。 ちなみに、仙姫もこの中の仲間だった。(彩鈴も) 仙姫をたった一人の妻と定めていて、他の上流貴族のように、側室が居ない。 自分が決めたことだというのに、親戚連中が仙姫にだけ文句を言いに来るのが気に食わないらしい。言うなら自分のところに来い、という感じ。 (なんか青架さんと被る←) どうしたもんか。 一人称は私。(か僕) はっきりと主張をする人。でも、腹に一物も二物も抱えている人。 玄翔と凰畢の口論を頬杖をつきながら、笑って見てるような人。だが、玄翔とは結構口論する。(凰畢とは負けるからやらない) 勝たない戦は挑まない人である。 |