あれは、そう、俺が4、5歳の頃だった。

 

 

 

 出会いの日――そしてそれから―― (琉李視点)

 

 

 

 俺と鈴明が初めて逢ったのは、俺が4、5歳の頃で、あいつがやった位の頃だったと思う。

 母上がお気に入りの反物店に女の子が生まれた、ってのは少し前から聞いていたような記憶がある。うっすらだけど。

 他人の子供だというのに、入れ込んでるんだなー、と思うくらいのはしゃぎようだったのが覚えている原因なのかもしれない。

 後に聞けば、鈴明の母上、彩鈴さんと母上は、幼馴染だったらしく、本来なら自分から行きたいくらいだったと、当時のようにはしゃいだ様子で話してくれた。

 まぁ、今でこん位なんだから、当時のはしゃぎようは……察してくれ。

 そんな訳で、生まれてから約一年後、あいつは彩鈴さんに抱きかかえられてやってきたんだ。

 

 

 

 梅の香りが庭に漂う春。

 僕が庇に座って、庭をぼぉーっと眺めてたら、母屋の方から母上が珍しく着飾って部屋から出てくるのを目撃した。

 一応、長男として、侍女や使用人から、父上や母上、俺の予定を聞いていたから、母上に着飾らせるような、高位の人の訪問なんてあったっけ? と、頭の中に残っている記憶たちをさらってみたが、該当するようなもの何て無かった。

 首を捻ってもう一回さらおうとしたら、突然目の前が真っ黒になる。

 目の上に冷たい手が乗っている。

「りゅーいっ!」

「は、ははうえっ!」

「あたり〜」

 嬉しそうに笑う着飾った母上が、僕の顔を覗き込んできた。

 こんな上機嫌な母上は久しぶりに見る。

 親戚の人と喧嘩? をして勝った後も嬉しそうな顔をするけれど、それの倍、倍以上のご機嫌さ。

 あれは、いつだっけ。……そう、母上の友達が4人目の子供を産んだって話を聞いた時だ。

 あの時も、父上をそっちのけにして、その人の家に行っちゃったんだ。父上、その後仕事だったから顔には出さなかったけど、結構拗ねてたな〜。

 だけど、今回は何なんだろ?

 また母上の友達が子供を産んだのかな? それとも、衣が届いたとか? 

「琉李、私の友達が来てるのよっ。彩鈴にも紹介してあげたいから、付いてきて」

 さいりん。

 ……あぁ、前に子供を産んだって言う、母上の友達の彩鈴さんか。

 この浮かれようは、そのせいか。

「分かったよー。行くから、ひっぱらないで……」

 もうこうなったら、母上は絶対止まらない……。

 諦めて僕は、せめて引っ張らないように嘆願してみるが、それすらも聞き入れてくれない。

 ずるずると庇を引きずられていく。

 途中、侍女達とすれ違って、目が合ったりしたけれど、侍女達は苦笑気味に一礼して止めてくれなかった。

 ……止めれるなんて微塵にも思ってないけどさ。

 母上はそんな侍女達の様子にも気付いていないみたいで、相変わらず僕を引きずり続けている。

 僕の様子にも気付かないほど浮かれているんだ。

 ため息をついたら、同時に母上の歩みも止まった。

 気付いたのか、と思ったけど、見当違いもいいとこ。

 ただたんに応接間に付いただけ。

 目線はそのまま奥に通じている。

「ははうえ?」

「あ、あぁ、はいるわよ」

「うん」

 一つ咳払いをし、母上は戸を開けた。

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